従来の脳波計は、物理的に脳との距離が近い頭皮に電極を貼り付け、測定を行います。しかし、脳科学の力でウェルビーイングの向上を目指す私たちにとって、従来の測定方法は、誰しもが簡単に実践できるという点を欠いており、あまり望ましくありません。
そこで私たちは、イヤホン型の脳波計を開発し、外耳道から脳波を読み取り、従来の脳波計と同じような正確性のあるデータの取得を試みました。
まず、予備実験として医療用等で使われる一般的な脳波計(Brain Amp DC)とイヤホン型脳波計の信号の相同性の確認を行いました。
その結果、イヤホン脳波計を用いて外耳道から取得した脳波と、従来の測定方法に倣って取得した頭皮上脳波(T7/T8)には、高い相関性があることがわかりました(図1)。
さらにこのデータから、イヤホン型脳波計特有の設計である、首についたリファレンスの電位の影響を考慮して、外耳道から取得された脳波成分のみの相同性を確認するため、T7/T8および左右外耳道電極にAverage referenceの処理を行い比較をしました。その結果、首についた電極から取得された心電等の影響を完全に除いた場合でも、イヤホン型脳波計は従来の脳波計から取得できるデータに高い相関性があることを確認することができました(図2)。さらにα波帯域で高い相関を示していることから、外耳道から取得される脳波は、主にα波帯域のものが取得できていることが示唆されています。
この予備実験の結果を踏まえて、本実験では、20代の健康な男性11名(うち2名は計測機の不具合により除外)の安静状態および計6回のワーキングメモリタスク実行中の脳波を取得し、Average referenceを行った上で、電極間のパワー成分(信号成分)の時間遷移について相関係数を算出しました。
その結果、イヤホン型脳波計の信号は、頭皮上の電極と相対的に高い相関がみられました(図3)。このことから、外耳道の電極からでも、頭皮上脳波信号と完璧な一致とまでは言いませんが、ある程度の相同性があるデータを記録できることが示されました。
さらに、ボンフェローニ補正法で補正をかけた上で有意となる電極ペアの生存率を計算したところ、α波帯域である10Hzでは、20%程度のデータで外耳道と頭皮上脳波の有意な相関が観察されました(図4)。
以上の結果より、この実験で従来のように頭皮上から脳波を測定する方法でなく、イヤホン型の脳波計を用いてより、手軽に脳波を測定できる可能性があることが明らかになりました。このような結果は、将来私たちが日常生活に脳波を用いて、幸福を追求しようとする手段が普及することを促進し、生活をより充実させることに大きく貢献することでしょう。
研究発表情報:
Inoue D, Ueda K, Ibaraki T, Imamura Y. Development of a neurofeedback system using In-Ear EEG for eustress-distress modulation. Poster presented at: Neuroscience 2022; Nov 16, 2022; San Diego, CA.