イベントレポート:DOMMUNEコラボ 第2弾「音楽の快感と報酬」

イベントレポート:DOMMUNEコラボ 第2弾「音楽の快感と報酬」

2024年1月31日(水)にDOMMUNEにて「Neuro Music Workshop Vol.02 - 第2章 音楽の快感と報酬」が配信されました。今回も第1回に引き続き、DOMMUNE代表の宇川直宏氏とVIE 代表取締役 今村泰彦氏、VIE チーフミュージックオフィサー 藤井進也氏が「音楽の快感と報酬」をテーマに対談を繰り広げました。番組は2時間半にわたって行われ、前半90分は「音楽を報酬と捉える脳の不思議」について語られ、後半は前回に引き続きニューロミュージックのDJライブが披露されました。今回は特に盛り上がりをみせたトーク内容を一部お届けします。

▼第1回「音楽と脳科学」の配信

https://www.youtube.com/live/mlnnkhsb8Uw?feature=shared

▼前回の配信レポート

https://vie.style/blogs/magazine/

番組は「どのような音楽を聴くと快感するか」というトークテーマから始まりました。音楽で快感を覚え、鳥肌が立った経験を「1. 全くない、2. ほとんどない、3. たまにある、4. よくある、5. すごくよくある」の5段階評価で選択する場面では、宇川氏が「僕は6番で毎日よくある。すごくよくあるどころじゃない」と話し、笑いを誘いました。さらに「世界中の音楽薬剤師たちが毎日ここ(DOMMUNEスタジオ)を訪れ、リアルタイムでエディットされる毎日だから、鳥肌が立たない方がおかしい。」と語りました。

世の中の一般的には、1995年に調査された結果、「3. たまにある」が一番多い結果となりましたが、「鳥肌がたつのはサウンドシステムの影響が大きく、毎日DOMMUNEに通えばみんな6になると思う。実は鳥肌は耳とは関係のないところで現れる現象なのだ。」と宇川氏は語り、それに共感して藤井氏も「音楽を聴く際、あらゆる感覚刺激を同時に受け取っているため、鳥肌がたつのも耳からの刺激と思われがちだが、音の向こうにある質感を感じているからこそ、私たちは鳥肌がたつ経験をするし、ライブならではの良さを感じるのだ。」と続けました。

また「どんな曲で鳥肌を感じますか?」という質問では、「情景と快楽がリンクしていることが大事で、例えばハワイに行きたいと思ってエキゾチックミュージックを聴いたら鳥肌が立つし、スイスのメディアアートについて語った後でフィールドレコーディングされた音楽を聴くと、情景に身を投じて音楽を聴くことができる。」と宇川氏は語り、求めているものと音楽の世界が一致することが重要であり、失恋した時に失恋音楽を聴くと感情移入できるのと同じで、いかにその音楽に自己投影できるかが左右する、と身近な例をあげて解説しました。

1曲の中で何回鳥肌を感じるのかという実験では、一番鳥肌を感じる回数が多い曲は「自分自身が選択した曲」になる結果が明かされ、鳥肌が立つ曲というのは人ぞれぞれで、その曲を聴くと鳥肌が立つという回路がきっと脳の中に存在しているのだと語られました。また、鳥肌が立つ曲の2位にランクインしていたのはPink Floydの”The Post War Dream”という曲で、鑑賞後「歌詞も英語圏の人には刺さるんだろうな。」と今村氏も納得の姿を見せました。

さらに、同じ曲を何度も聴いた場合、鳥肌の立つ回数は徐々に減っていくという実験が紹介され、宇川氏は「鳥肌の立つ回数は増えていくと思った。」と驚きを見せました。藤井氏は「曲を聴いて鳥肌が立つような経験を一度すると、脳がそれを覚えてさらに求めることもあるし、反対に求めすぎると耐性ができてしまって効かなくなることもある。何回も処方すると効かなくなるし、副作用が出ることもある。」と薬に例えて説明しました。

また、宇川氏は鳥肌の回数変化は「曲の抽象度」によって変わるのではないかと考察し、「実験で使われた曲は情感豊かで、聴くたびに毎回同じような情景を思い浮かべるが、抽象性のある音楽であれば、見えてくるものが置かれている状況によって変わる。」と語りました。心の状態(=セット)と環境(=セッティング)、そして音楽の3つが密接に関わり合い、私たちは音楽を感じているのだそうです。

「音楽の快感を客観的に評価する方法」というテーマでは、鳥肌をカメラで測る技術が紹介され、「まさに鳥肌警察だ!」と笑いを誘いました。また最近では、体温や心拍、呼吸などの生体データから、音楽で快感を感じている時にヒトはどのような反応を示すのかを調べる研究が行われており、音楽で快感を感じると交感神経が活性化するというデータも取れていると紹介されました。

そしていよいよ本題の「音楽を聴いている時、脳ではどのようなことが起きているか」というテーマでは、「音楽を聴いて自己投影し、音楽と一体化できているかどうかが大事だと思う。心も体も嘘をつかないから、もし一体化していたら、ドーパミンのような快楽物質が脳の中で出ているのではないか。」と宇川氏は考察しました。

そもそも報酬は3種類あるといいます。一次報酬は衣食住といった生の動機や感情を生む物質、状況を指します。例えば水を例にとると、水は生物にとってなくてはならない必須のもので、どういう行動を取れば水が飲めるのかを学習し、強化していくことが大切になります。このように生存のために必要なものが、脳の報酬系の機能を使ってデザインされており、その報酬のためにどのような行動を取れば良いのかを学習していくことは脳の機能でとても重要な役割を果たします。

そして二次報酬は、一次報酬に帰すことの出来るお金を指します。お金はそのもの自体は食べることはできず、価値を象徴するものでありますが、一次報酬に還元可能で無限の選択肢が与えられているものです。

最後に三次報酬は、音楽や絵画などのアートを指します。アートは一次・二次報酬のように生存に直結するものではありません。しかしヒトは、アートに喜びや快感を感じ、アートにより意欲が湧き上がるなど行動にまで影響を与えることもあります。では、この三次報酬のアートで喜びを感じている時、脳内ではどのようなことが起きているのでしょうか?

音楽と脳の研究は1990年代から始まったといいます。「音楽は娯楽であって人間には必要ない。」とピンカーが言ったように、音楽を聴いた時に報酬の脳回路が活動するかどうかはとても重要な議論であり、これが活性化していないと、音楽は人間にとっては大事なものであるとは言い切れなくなってしまいます。実際に、Blood&Zatoreが2001年に出版した論文では、音楽を聴くことで報酬と同じ脳回路が活性化することがわかり、「まさにNo music No lifeが証明されたのか。」と宇川氏はコメントしました。

また2011年にはPETとMRIという機械を使って、音楽を聴取し、快感を感じている時の脳活動を測定したところ、報酬の脳回路の中でも重要な役割を果たす側坐核という場所で、ドーパミンが放出されていることが見つかりました。宇川氏は「音楽は摂取しているという感覚がある。外的要因を求めているからこそ、あの曲が聴きたいと思ったり、自分が選択した曲を聴いて鳥肌が立ったりするのだと思う。脳内にある音楽の記憶を引っ張り出してドーパミンを出すことができたら、それが本当の内因性と言えるのではないか。」と語りました。内因性に関連して藤井氏は、「その人がある環境にいるときにその人の状態だけではない、その内因性がどう生まれるのか」について、親しみのある音楽と新しい音楽を聴いた時の脳活動で、予測と実際の経験(予測誤差)がある時に脳回路が分かれる例も紹介しました。

音楽を聴いている時に喜びを感じていない時は、脳の報酬系は活性化されず、どのような音の展開にすれば人は快感を感じるのかの研究もされているそうです。「脳刺激を与えることによって音楽で得られる報酬を変化させる。脳を刺激して音楽を聴く時代が来たのだ」と藤井氏は語り、次回のテーマは「音楽とドラックにしよう」と会場を笑いに誘い90分間の対談は幕を閉じました。待望の第3夜の情報解禁まで今しばらくお待ちください!

▼第2回「音楽の快感と報酬」配信
https://www.youtube.com/live/Jcw9nA4Lrd0?feature=shared